俄歩
「山に登ること」 は、与えられた条件の中で新しい経験を積むことに 他ならない。 だから、  自然と向き合える体力  自然を味わえる感性  自然に応えられる知力  を大切にしたい。
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Author:俄歩人 (がふと)
 学生時代に歩いた山、歩きそびれた山をひとり
静かにたのしんでいます。



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北八ヶ岳逍遥
 しばらく絶巓から遠ざかっていたのでこの梅雨時に相応しい山稜をと考え、あの苔の美しい樹林と
雨に煙る池を逍遥しに北八つへ出かけた。
昨年のこの時期は ツクモグサを見るため南八ヶ岳:硫黄岳・横岳・赤岳(「山行クロニクルNo.10」)
を歩いたが、今年は北横岳から神奈備の山として崇められている蓼科山へ向かう。

 天気予報は勿論雨。 雨・雨・・・
雨の北八つは岩塊と森林と苔によって埋め尽くされた静かな佇まい、誰しもが想いうかべるのは
朽ちた倒木、湿った土そしてなんとも言いようの無いあの苔の色と匂いであろう。
トウヒ、シラビソ、ツガの薄暗い針葉樹林が重なり合ってずうっと限りなく続く中、厚い苔が木の根は
もとより岩をも覆いつくし、一種独特の幽遠な景観を形作っている。
新芽のカラマツ林も静かなことだろう。 再び、その雰囲気を味わうことが今度の山行目的。

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針葉樹林          凹地の池          湿った苔   (写真はクリックして拡大して下さい)

「山行クロニクルNo.20」 北横岳 ・ 蓼科山       単独

’08.6.21(土) 浦和〜中央道諏訪IC〜ヴィーナスライン・ピラタスロープウエイ山麓駅〜
            山頂駅・坪庭〜北横岳〜亀甲池〜天祥寺原〜将軍平〜蓼科山頂ヒュッテ(泊)
    6.22(日) 山頂〜将軍平〜前掛山分岐〜大河原峠〜双子山〜双子池〜雨池峠〜八丁平
            〜ロープウエイ山頂駅〜唐沢鉱泉(泊)
    6.23(月) 鉱泉〜麦草峠〜白駒池〜麦草峠〜中央道諏訪IC〜浦和

6.21(土) 早朝4時、浦和を出発。7時30分 小雨に煙るダズマ平 ロープウエイ山麓駅に着く。
8時20分 始発のゴンドラは土曜日というのに乗客は2人のみ。
標高差470mを僅か7分で稼ぐ。北横岳の中腹は芽吹いた新緑のカラマツ林が雨に磨かれて美しい。

 ひとり山に這入る誰しもが感じる昂揚とちょっぴりの憂鬱さを抱いて山頂駅・坪庭から北横岳への
道を辿る。沛然と驟雨が来る中、名残のミネズオウと盛りのコイワカガミが迎えてくれる。
 
P1000903.jpg P1000906.jpg
ミネズオウ          コイワカガミ

 登路の樹林はメボソやミソサザイの明るい囀り、時折、身近のウグイス 遠くにカッコウの声が混じる。
誰も居ない北横岳ヒュッテの前を通り七つ池に降る道を分け、北横岳山頂(2472m)へ。
天気が良ければ指呼の間の三ッ岳、大岳さらに南の八ヶ岳主脈が一連の連なりとして眺められる筈
であるが、霧と雨。風も無く視界も無し。タカネザクラが小さな花を濡らしていた。

P1000910.jpg P1000908.jpg
北横岳山頂         タカネザクラ

 小休止の後、北面の標高差500mの一気の大降り。思いのほか残雪が多く、踏み抜きと凍結面
の滑りに注意を払いながら真っ黒な森を亀甲池まで降る。
山の凹地に出来た天然の水溜りのような池。11時過ぎ。雨が少し途切れゆっくりと昼食を楽しむ。
今日の弁当は妻の手作り稲荷寿し。ここまで一人の声も聞かず姿も見ない。
ボヤーと1時間の大休止。この池の周囲は北八つといっても白駒池周辺のような苔の美しさは少ない。
むしろ笹原がのさばっている。
                                   P1000915.jpg 亀甲池
                                        
 双子池への道を分け、天祥寺原を目指す。
夕日の丘を左に巻く原への道は熊笹に覆われ、近頃は歩く人が少ないのか切り明けも塞がりかけていた。
天祥寺原から蓼科山頂直下の将軍平への沢道を登る。苔むしたゴロゴロ石が不規則に重なり合う
歩きにくい沢。ほとんど踏み跡が見られない。
二度ほど滑り脛と肘を打つ。憮然として転んだまま一服。30分ほどで沢から離れホッとする。
標準時間1時間20分と表示された500mの標高差を2時間かけて将軍平に着いた。もう16キロ近い
ザックは私には無理なのかも知れない と一抹の寂しさを感じる。

 この十字路、山荘前の広場にも誰も居ない。前夜の睡眠不足もあってか結構な疲れを感じ、小休止。
弾みをつけ、急坂のゴロ太石の階段状の重なりを山頂目指し、這い蹲るように喘ぎ攀じる。
諏訪富士と古称される岩塊の山頂(2530m) 4時着。

 山頂ヒュッテ、小屋主氏に迎えられ装備を解く。
土曜日にもかかわらず本日2人目の客とか。天気予報が雨々と言うと 最近は誰も登って来ないん
ですよ と淋しそう。
2〜3日前、妻の友人 Suさんに戴いた小屋の優待割引券を出しそびれてしまった。もっと繁盛している
小屋で使わせてもらうこととする。
同宿者は岩手県盛岡市近郊から新幹線と特急を乗り継いできたという50代後半と思われる男性。
百名山ハンターらしい。地震被災後一週間なのに 「大人の休日パスなので予定通り来ました。
でもあの揺れは初めての体験でした・・・」と話してくれた。

6.22(日) 小雨。360度の眺望が売り物の山頂はガスに包まれ視界無し。
一瞬のガスの切れ目に南八ヶ岳の連山が黒く覗く。

P1000918.jpg P1000921.jpg P1000922.jpg
雲海             南八ヶ岳           山頂 

 7時過ぎ、山頂を後に将軍平へ降る。 
後から降りてきた昨夜の同宿者 御泉水へ降るという彼と別れ、大河原峠へ向かう。また 一人になった。
前掛山分岐から峠への道は ここ2〜3日の雨で長靴を履いて歩きたいような流水と水溜りの登山道。
立ち枯れた木や倒木も多く、森が途切れる小さな湿地や草原にカタバミやミツバオウレンの小さな白花
が目立つ。
 前方が拓け、笹が多くなった頃、単独行の若者二人とすれ違う。これから蓼科山に登るという。
雨なのに大河原峠は展望が良く明るさを感じさせる広場だ。
売店もヒュッテも誰も居らず準備中の札。

小休止の後、双子山を経て双子池へ廻る道へ分け入る。
しばらくは気持ちの良い笹原を登る。急に雨脚が強くなり小樹林を抜けて2223mの山頂へ。
だだっ広い頂は雨中とはいえ いかにものほほんとした雰囲気をもっている。
雨に打たれたまま一服。
P1000928.jpg 双子山 山頂

 ホーロク平の草原を経てシラビソやツガの幽林に這入る。
降って熊笹の下生えが多くなり、カラマツの新芽が美しく明るさを感じさせる頃、双子池ヒュッテに着いた。
雨の為昼食を自炊するのも億劫になり、小屋に立ち寄る。
老夫婦に 何か食事はできますか と尋ねるが、今はカップラーメンならあるが という返事。
老人は 土曜日なのに昨夜はひとりも来なかった、はやく梅雨が空けて欲しい とこれまた淋しそうに語る。
晴れていれば新緑のカラマツ林が水面に映えて美しい雄池、雌池のそれぞれも雨に煙ってしまっている。

P1000932.jpg P1000933.jpg 
雄池             カラマツ林

 カップラーメンの昼食を済まし、御礼を言い、大岳への急登を避けて 佐久側の裾野を切り拓いた林道
を雨池へと辿る。
雨に濡れた地衣類のサルオガセを羽衣のように纏ったカラマツがとりわけ感興をそそる。
                                    P1000940.jpg サルオガセ 

 一人として出会うことの無い静かな林道を1時間、雨池峠への分岐で急坂を峠に向けて攀じる。
沢筋の為 時折、流水が顔にまで刎ねかかる。コイワカガミ、ミツバオウレンなどの花が慰めてくれる。
P1000947.jpg ミツバオウレン

 またしても誰も居ない雨池峠で小休止。草原の八丁平を過ぎり坪庭の木道を歩いてロープウエイ
山頂駅へ。やはり登山者も観光客もゼロ。
私一人の客のための午後2時の便で山麓に降り立った。
 北八つの樹林と池はたっぷりと味わったが、林床の苔はいまひとつ。
今夜の宿 唐沢鉱泉へ車を走らせながら、明日は 晴れていれば天狗岳を登りニュウを経て白駒池へ、
雨であれば直接麦草峠から白駒池へ 苔を見に行こうと決めた。

 この夜の泊り客は 登山者は私ひとり、他に東京から蓼科高原に遊びに来た男女5人組の計6人。
女将の話では ここ一両日 湯の白濁が著しいという。
源泉9度の冷泉の沸かし湯であるが、のんびり浸かり足と肩の疲れを癒した。
 ビールを楽しみながら雨に鮮やかな緑を眺め、雨音を聴いているとなんとも言えない満ち足りた気分
になってくる。部屋からダケカンバの木々の間に垣間見える小池は、白濁した中に雨で増水した
薄茶色の沢水が流れ込み、ロールケーキの様な渦巻き模様を作りベージュ色に染め上げられていく。

P1000952.jpg P1000950.jpg
鉱泉宿の小池       鉱泉の湯

6.23(月) やはり雨。
 麦草峠まで走り、白駒池周辺の苔を見に行く。
トウヒ、シラビソ、ツガの樹林を歩き 池を眺め 苔を味わう。もう一ヶ月もすれば林床の苔の蒼さが
際立つようになるだろう。
20年近く前、妻と歩いた時の7月の苔は素晴らしかったことを想い出す。

P1000959.jpg P1000956.jpg P1000955.jpg
林床の苔                          白駒池

 再び、麦草峠からメルヘン街道を下り中央道で浦和へ帰る。
山巓からの眺望は得られなかったが、雨の北八つを充分堪能した山行だった。

                P1000924.jpg P1000926.jpg P1000949.jpg
                蓼科山への登路      大河原峠          雨池峠
                (写真はクリックして拡大して下さい)

*長年使っていた愛用のデジカメが機能せず、息子夫婦からプレゼントされた高級デジカメを持って
いった。高級すぎてまだ使いこなせず、想っていたイメージを撮り込む技術が今のところ身についていない。
反省。







テーマ:登山 - ジャンル:スポーツ

尾瀬散策
 咲き初めの可憐なミズバショウを見たい という妻の希望を受け、友人 Yu氏夫妻と尾瀬を歩いた。
会津駒ケ岳登山を除き、燧ヶ岳の裾野を一周するほぼ昨年の独り歩きと同じルートを案内した。

DSCF1863.jpg  DSCF1865.jpg
ミズバショウ          リュウキンカ        (写真はクリックして拡大してください)

’08.6.1(日)浦和〜塩原〜会津高原〜檜枝岐温泉(泊)
    6.2(月)温泉〜御池駐車場〜燧裏林道〜温泉小屋〜見晴〜龍宮小屋(泊)・尾瀬ヶ原散策
    6.3(火)小屋〜白砂乗越〜尾瀬沼・沼尻〜長蔵小屋〜大江湿原〜沼山峠〜御池〜
          檜枝岐〜浦和

 この季節でも歩く人の少ない燧裏林道は、昨年よりも残雪が多かったが 雪と池塘と枯野の田代は
ツガやトウヒ、シラビソの暗い森、新芽を吹いた明るいブナ林と相まって静寂の中に春の息吹を感じさせるに
充分であった。
高層湿原・上田代から見た会津駒ケ岳はまだ一面真っ白、昨年の登頂の思い出が蘇る。

2007_0601会津駒&尾瀬0017 会津駒ケ岳

幾つかの田代と沢を横切り、段吉新道の大橇沢周辺ではムラサキヤシオとタムシバの紅白の彩りも
鮮やかだった。

 尾瀬ヶ原は期待に違わず 咲き初めでまだ葉が小さく白い包が際立つこの時期特有のミズバショウ
が同行者を楽しませた。
リュウキンカ、ショウジョウバカマ、タテヤマリンドウ、ミツガシワ、ザゼンソウなどなど・・・
原の周囲はダケカンバの林、至仏山、景鶴山、燧ケ岳の山々が風情を添える。
ワタスゲはまだ穂先が黒く、白いひげはつけていない。ニッコウキスゲ、ヒオウギアヤメ、イワイチョウ
の新芽が枯野を押し上げ始めていた。
小屋は平日なのにアマチュアカメラマンの団体で満室。

 翌日は小雨。やはりこの時期のミズバショウには雨が似合う。朝霧の中、カッコウの声がひと際
冴え渡る。梢で尾をピンと上げ翼をたらし、声を遠くまで響き渡らせるカッコウの姿をYu氏が見つけた。
托卵する相手の巣はモズかホオジロだろうか。

DSC00891.jpg 梢で独唱するカッコウ

 尾瀬沼までの白砂峠越えはエンレイソウが目立つ、2〜3ヶ所で白花のエンレイソウを見つけた。
が、妻や友人に見せたかったギンリョウソウは探し出すことが出来なかった。まだ少し早いのだろう。

DSC00896.jpg  2007_0601会津駒&尾瀬0057
白花エンレイソウ       尾瀬沼・沼尻

 尾瀬沼は雨に煙り 静かな佇まいを見せていた。沼畔のヒメシャクナゲの花芽はまだまだ固く、
今年は少し遅くなりそうだ。
尾瀬の父と呼称される武田久吉博士の「明治の山旅」に、明治38年7月初旬、戸倉から鳩待峠を
経て尾瀬ヶ原・山の鼻まで5時間半、湿地のミズバショウ、草地のオオサクラソウが可憐であった
と語り、 我々同様、丈堀(現 見晴)から白砂峠を越え沼尻へ、さらに尾瀬沼の北岸を浅湖湿原から
沼田街道・長蔵小屋への道を辿ったと記し、沼尻からは
「ゴゼンタチバナの白花美し、路は燧ケ岳の裾を行くにてツガなどの巨木 昼なお暗きまでに生い立ち
時には例のネマガリダケのはえたる斜面をつたいて泥土に足を奪われしこと数回なりき・・・」 と。

 帰途は大江湿原を抜け、残雪の沼山峠を越えた。
峠の手前にあった熊追いの鐘は撤去されてしまっていた。

DSCF1861.jpg 檜枝岐村のライラック

昨年同時期の会津駒ケ岳&尾瀬は 「山行クロニクルNO.9」を覗いてみてください。